火風鼎

かふうてい

古いものを入れ替え、じっくり煮込んで育て上げる時

上卦:離(火) 下卦:巽(風)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文鼎、元吉、亨。

書き下し鼎(てい)は、元(おお)いに吉(きち)、亨(とお)る。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、材料を鍋でコトコト煮込んで、おいしい料理を仕上げていくような——時間をかけて何かを育て、形にしていく空気が流れているようです。

鼎(かなえ)というのは、三本足の大きな煮炊きの器のこと。古いものを捨てて新しい材料を入れ、火にかけて、人をもてなし養うための器ですね。

新しい体制や仕組みを立ち上げる時、人を育てたり登用したりする時、腰を据えて何かをじっくり作り上げていく時に、この卦はよく出ます。基本的には、とても良い流れの卦です。

ただ、その「育てて仕上げる」がうまく実るか、それとも途中でこぼしてしまうかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。

どっしり安定して力を発揮できる段階もあれば、足元が危うくて中身をこぼしかねない段階もある。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文鼎顛趾、利出否、得妾以其子、无咎。

書き下し鼎(かなえ)趾(あし)を顛(さかさ)にす。否(あ)しきを出(い)だすに利(よろ)し。妾(しょう)を得(え)て其(そ)の子(こ)を以(もっ)てす。咎(とが)无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
古いものを一度出しきって、新しく始める段階。思いきった仕切り直しが吉です。
今は、こんな時
鍋をいったんひっくり返して、底にたまった古い滓を出してしまう——今はそんなふうに、たまっていた良くないものを思いきって出し、まっさらにして始め直す時です。長く続けて古びてしまったやり方をリセットしたい、過去のしがらみや悪い習慣を手放したい、新しい環境で一から仕切り直したい。そんな心当たり、ありませんか?一見、ひっくり返すなんて乱暴に見えても、今はそれが理にかなっているんです。
とるべき行動
思いきって、古いものや要らないものを出してしまうのがよさそうです。これまでのこだわりや、合わなくなった関係、ためこんだ不要なもの——手放すことで、新しいものを受け入れる余白ができます。そうして仕切り直すなら、咎められることはない時ですから、安心して整理してみてください。
気をつけたいこと
身分や格好にこだわりすぎないことです。今は出自や体裁よりも、中身を新しくすることが大事な段階。「こんなやり方でいいのかな」と迷っても、思いきりが良いほうに転びやすい時ですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は火天大有(かてんたいゆう)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

九二(きゅうじ)

白文鼎有實、我仇有疾、不我能即、吉。

書き下し鼎(かなえ)に実(じつ)有り。我(わ)が仇(あだ)に疾(やまい)有り、我(われ)に即(つ)く能(あた)わず。吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
中身が充実してくる段階。自分の力を守れば、邪魔は届きません。
今は、こんな時
鍋にたっぷり良い中身が満ちている——そんなふうに、あなたの実力や成果がしっかり充実してきている時です。ただ、こういう時に限って、足を引っ張ろうとする人や、やっかむ相手が出てきやすいもの。でも今は、その相手のほうに事情があって、あなたには近づけない時なんです。自分の仕事が乗ってきた、評価が上がってきた、でも横やりや妬みも感じる。そんな場面に心当たりはありませんか?
とるべき行動
余計なものに気を取られず、自分の中身を充実させることに集中するのがよさそうです。しっかりしていれば妨げは届かず、良い結果になる時ですから、ちょっかいにいちいち反応しなくて大丈夫。自分の足場をきちんと保つことが、いちばんの守りになりますよ。
気をつけたいこと
相手の挑発に乗って、こちらから揉めごとに首を突っ込まないことです。今は、まともに相手をしないほうが賢明。淡々と自分のやるべきことを進めていきましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は火山旅(かざんりょ)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文鼎耳革、其行塞、雉膏不食、方雨虧悔、終吉。

書き下し鼎(かなえ)の耳(みみ)革(あらた)まり、其(そ)の行(ゆ)くこと塞(ふさ)がる。雉膏(ちこう)食(くら)われず。方(まさ)に雨ふらんとして悔(く)い虧(か)く。終(つい)に吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
力はあるのに活かしきれない、もどかしい段階。でも最後には報われます。
今は、こんな時
鍋に立派なごちそうが入っているのに、運ぶための耳の部分がうまく合わず、動かせない——せっかくの中身が活かせない、そんなもどかしさを感じていませんか?実力も成果もあるのに、評価してもらえない、機会に恵まれない、人とのつながりがうまくいかず宝の持ち腐れになっている。今はそういう、噛み合わない時期なのかもしれません。でも、ひとつ安心してほしいんです。この詰まりは、やがて雨が降って空気が和らぐように、自然と解けていきます。最後には良い形に落ち着く時なんです。
とるべき行動
今すぐ報われなくても、腐らずに中身を保っておくのがよさそうです。実力を磨き続ける、誠実に振る舞い続ける、つながりを切らさずにおく。和らぐ時は必ず来ますから、それまで自分の価値を手放さないでいてください。
気をつけたいこと
「どうせ評価されない」と投げやりになって、せっかくの中身まで腐らせないことです。もどかしさは今だけ。終わりは吉だと信じて、もう少しだけ踏ん張ってみましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は火水未濟(かすいびせい)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

九四(きゅうし)

白文鼎折足、覆公餗、其形渥、凶。

書き下し鼎(かなえ)足(あし)を折(お)り、公(こう)の餗(そく)を覆(くつがえ)す。其(そ)の形(かたち)渥(あく)たり。凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
力不足のまま重い荷を背負うと危うい段階。背伸びは禁物です。
今は、こんな時
鍋の足が折れて、中の大事なごちそうをぶちまけてしまう——これは、自分の力量を超えた重い役割を背負って、大失敗してしまう危うさを表しています。実力が伴わないのに大きな責任を引き受けてしまった、信頼できない相手に大事な仕事を任せている、手に余ることを抱え込んでしまっている。そんな不安、心当たりはありませんか?もし思い当たるなら、今は無理を重ねやすい、注意が必要な局面です。
とるべき行動
背負いきれない荷物は、正直に「手に余ります」と認めて、抱え込みすぎないのが大事です。任せる相手は慎重に選ぶ、自分のキャパを超えた約束はしない、助けを求めることをためらわない。見栄を張って無理をするより、ここは身の丈に正直になるほうが、ずっと安全ですよ。
気をつけたいこと
この段階は、原典でもはっきり「危うい」とされる場面です。「自分なら大丈夫」という過信が、いちばんつまずきのもとになりやすい時。大げさに怖がる必要はありませんが、背伸びだけは控えて、足元をよく確かめてくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は山風蠱(さんぷうこ)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

六五(りくご)

白文鼎黃耳、金鉉、利貞。

書き下し鼎(かなえ)黄耳(こうじ)、金鉉(きんげん)あり。貞(ただ)しきに利(よろ)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
高い位で、しなやかに人を受け止める段階。中庸の構えが吉です。
今は、こんな時
黄色い耳に金の取っ手——どっしりと安定した器が、しっかりと役割を果たす時です。高い立場にありながら、堅すぎず柔らかすぎず、ちょうどいいバランスで人やものごとを受け止められる。リーダーやまとめ役を任されている、人の意見を広く受け入れる立場にいる、信頼されて中心的な役割を担っている。そんな場面にいませんか?
とるべき行動
もしそうなら、偏らず、しなやかに人を受け止める姿勢を大事にするといいと思いますよ。正しさを保っていれば、物事はうまく運ぶ時です。自分の考えに固執せず、良い意見は素直に取り入れる。その柔らかさと中庸の構えが、高い位置をしっかり支えてくれます。
気をつけたいこと
ただ、柔らかさが「優柔不断」になってはいけません。受け止める器の大きさと、芯の正しさ。その両方があってこその安定です。そこだけ外さなければ、心配いりませんよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は天風姤(てんぷうこう)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文鼎玉鉉、大吉、无不利。

書き下し鼎(かなえ)玉鉉(ぎょくげん)あり。大いに吉(きち)、利(よろ)しからざる无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
すべてが整い、仕上がる最上の段階。これ以上ないほど良い時です。
今は、こんな時
玉でできた美しい取っ手——鍋がもっとも上等に仕上がり、中身も器も申し分なく整った時です。ほかの卦だと「いちばん上」は行き過ぎて危ういことが多いのですが、この鼎は違います。最後の段階こそ、いちばん良い実りを迎えるんです。長く育ててきたものが見事に完成する、積み重ねが最高の形で結実する、人を養い導く役割を立派に果たせる。そんな手応え、ありませんか?
とるべき行動
もしそうなら、自信を持って、その仕上がりを存分に活かしていい時です。これ以上ないほど良く、何をしてもうまくいきやすい時ですから、遠慮はいりません。そして、手にした実りを自分だけのものにせず、周りの人を養い、引き上げる側に回れると、流れはもっと豊かになりますよ。
気をつけたいこと
これだけ良い時だからこそ、感謝とおごらない心を忘れないでいたいですね。ここまで支えてくれた人やものごとへの感謝が、この最高の実りを、長く穏やかに保ってくれます。

この爻が陰陽反転すると、卦は雷風恒(らいふうこう)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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