艮為山
いったん立ち止まって、動かない時
上卦:艮(山) 下卦:艮(山)
白文艮其背、不獲其身、行其庭、不見其人、无咎。
書き下し其の背(せ)に艮(とど)まりて、其の身を獲(え)ず。其の庭(にわ)を行きて、其の人を見ず。咎(とが)无し。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、前へ前へと進むより、どっしりと山のように動かず、その場にとどまることに意味がある——そんな空気が流れているようです。
山は自分から動きません。来るものを静かに受け止め、ただそこに在り続ける。今はそんな「止まる力」が問われている局面ですね。
何かを始めたくてうずうずしているけれどまだ時期じゃない時、欲や衝動を抑えたい時、心がざわついて落ち着かない時に、この卦はよく出ます。
ただ、その「止まる」ことが、心を整える良い静けさになるか、ただ身動きが取れず苦しいだけになるかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。
だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初六(しょりく) ― いちばん最初の段階
白文艮其趾、无咎、利永貞。
書き下し其の趾(あし)に艮(とど)まる。咎(とが)无く、永貞(えいてい)に利(よろ)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 動き出す前に、足を止める段階。早めに止まれているので、まず大丈夫です。
- 今は、こんな時
- まだ一歩も踏み出していない、その足の先で立ち止まっている——そんな段階にいませんか?やろうかどうか迷っている、勢いで動きかけたけれど踏みとどまった、始める前にふと「待てよ」と感じた。何かを始める手前で立ち止まれている今は、実はとても良いタイミングなんです。
- とるべき行動
- その「待てよ」という感覚を、信じてあげてください。今はまだ動かず、様子を見るのがよさそうです。早い段階で止まれているので、咎められることはありませんよ。そして、その慎重さを一時の気まぐれで終わらせず、長く正しく保てると、もっと良い結果につながります。
- 気をつけたいこと
- 周りが動いていると、「自分だけ止まっていて大丈夫かな」と焦りがちです。でも、踏み出す前にブレーキを踏めるのは強みです。焦らなくて大丈夫。今は止まることが、ちゃんとした選択なんですよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は山火賁(さんかひ)に変わります(之卦)。
六二(りくじ)
白文艮其腓、不拯其隨、其心不快。
書き下し其の腓(こむら)に艮(とど)まる。其の随(したが)うを拯(すく)わず、其の心快(こころよ)からず。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 止まりたいのに、流れに引きずられて、心がもやもやする段階かもしれません。
- 今は、こんな時
- 自分は止まっていたいのに、上の人や周りの動きに合わせて、ずるずる引っ張られている——そんなもどかしさ、ありませんか?本当は止めたいのに止められない、巻き込まれているのに口出しできない、見ていてハラハラするのに自分の立場では手出しできない。助けたい相手を救えずに、心が晴れないまま見ているしかない。今はそんな、歯がゆい段階なのかもしれません。
- とるべき行動
- 今は、自分一人で流れを止められる位置にいないのかもしれません。だとしたら、無理に引きずられた先で全部背負い込もうとしないことです。自分の足だけは止めておく、できる範囲で線を引く——もどかしさを抱えつつも、せめて自分の軸はぶらさないでおくのがよさそうですよ。
- 気をつけたいこと
- 「どうせ止められない」と投げやりになって、一緒に流されてしまわないことです。心が晴れないのは、あなたがちゃんと「これは違う」と感じている証拠。その感覚を消さずに持っておけば、動ける時が来た時にすぐ動けますよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は山風蠱(さんぷうこ)に変わります(之卦)。
九三(きゅうさん)
白文艮其限、列其夤、厲薰心。
書き下し其の限(こし)に艮(とど)まる。其の夤(じん)を列(さ)く。厲(あや)うくして心を薰(や)く。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 無理やり止めようとして、かえって苦しくなっている段階のようです。
- 今は、こんな時
- 止まるべきところを、力ずくで抑え込もうとして、心も体も張りつめている——そんな状態になっていませんか?感情を無理に押し殺している、本当はつながっている部分を断ち切ろうとして痛む、我慢に我慢を重ねて気持ちが焦げつくよう。背中を引き裂くような無理な止め方は、危うさを生み、胸の内をジリジリ焼いてしまいます。今はそんな、緊張で息が詰まる段階なのかもしれません。
- とるべき行動
- 止まること自体は悪くありません。でも、止め方が力任せになっていないか、いちど見直してみてください。全部を断ち切ろうとせず、力を抜けるところは抜く。完璧に抑え込もうとするほど苦しくなるので、「ほどほどに止める」くらいでちょうどいいと思いますよ。
- 気をつけたいこと
- 無理な我慢は、ある日ぷつんと切れてしまいます。胸が焼けるような苦しさを感じているなら、それは止め方が極端になっているサインかもしれません。一人で抱えず、息抜きや逃げ道を用意しておいてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は山地剝(さんちはく)に変わります(之卦)。
六四(りくし)
白文艮其身、无咎。
書き下し其の身に艮(とど)まる。咎(とが)无し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 心も体も、まるごと静かに止められている段階。落ち着いていて大丈夫です。
- 今は、こんな時
- 足だけ、頭だけ、ではなく、自分という存在まるごとが、静かに落ち着いている——そんな穏やかな状態にいませんか?焦りが収まって地に足がついている、余計な動きをせず身を慎めている、自分の領分をわきまえて静かにしていられる。今は、無理なく「止まる」ができている、良いバランスの段階だと思います。
- とるべき行動
- その落ち着きを、そのまま保っていくのがよさそうです。今は新しく動き出すより、整った状態を維持する時。身を慎んで静かにしているかぎり、咎められることはありませんから、安心してこの静けさの中にいてください。
- 気をつけたいこと
- ただ、静かでいられている今を「退屈だ」と感じて、わざわざ波風を立てたくならないように。穏やかな時間は、次に動く時のための充電期間でもあります。この凪を、ありがたく味わっておきましょう。
この爻が陰陽反転すると、卦は火山旅(かざんりょ)に変わります(之卦)。
六五(りくご)
白文艮其輔、言有序、悔亡。
書き下し其の輔(ほお)に艮(とど)まる。言(げん)に序(じょ)有り、悔(く)い亡(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 言葉を整え、しゃべりすぎを止める段階。後悔の種が消えていく時かもしれません。
- 今は、こんな時
- 思ったことをそのまま口にするのを止めて、言葉を選べるようになってきた——そんな手応え、ありませんか?以前は勢いで余計なことを言ってしまったけれど、今は一拍おいて話せる。順序立てて、筋の通った話し方ができている。口は災いのもと、と言いますが、今のあなたはその口元をうまく抑えられている段階です。
- とるべき行動
- その「話す前に整える」習慣を、大事に続けてみてください。要点を順序立てて、過不足なく伝える。それだけで、人とのすれ違いや言い過ぎによる失敗がぐっと減ります。言葉に筋道が通っていれば、後悔は消えていきますから、安心して落ち着いた話し方を貫いてくださいね。
- 気をつけたいこと
- 黙ればいい、というわけでもありません。大事なのは「整えて話す」こと。言うべきことまで飲み込んでしまうと、今度は伝わらなさが残ります。沈黙と発言のさじ加減——そこを意識できると、ちょうどいいですよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は風山漸(ふうざんぜん)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文敦艮、吉。
書き下し敦(あつ)く艮(とど)まる、吉(きち)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 止まり方が、どっしりと厚く定まる段階。揺るがない安定の時です。
- 今は、こんな時
- もう迷いがなく、腰を据えて「ここに留まる」と決められている——そんな、地に足のついた状態にいませんか?周りが騒がしくても動じない、誘惑や雑音に振り回されなくなった、自分の在り方が定まって落ち着いている。山のように、どっしりと構えていられる。今は、これまで積み重ねてきた「止まる力」が、いちばん厚く実っている段階だと思います。
- とるべき行動
- その揺るがなさを、自信にしていいと思いますよ。篤実にどっしり構えていられる今は、とても良い状態(吉)です。軽々しく動かず、ぶれない軸でいることが、そのまま周りからの信頼につながります。焦って動き出す必要はありません。
- 気をつけたいこと
- ただ、「動かない」が「頑固で人の話を聞かない」になってしまうと、せっかくの安定がもったいないです。どっしり構えながらも、心は開いておく。揺るがなさと柔らかさが両立できると、この良い状態がずっと続きますよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は地山謙(ちざんけん)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。
読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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