山天大畜
大きな力を内に蓄えて、いざという時に備える時
上卦:艮(山) 下卦:乾(天)
白文大畜、利貞、不家食吉、利涉大川。
書き下し大畜(たいちく)は、貞(ただ)しきに利(よろ)し。家に食(しょく)せざれば吉。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)し。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、強い力を一気に放つのではなく、いったん内にぐっと蓄えて、大きく育てていく——そんな空気が流れているようです。
山が、天のように大きなエネルギーを内側に静かにため込んでいくイメージですね。「畜」という字には、「蓄える」と「抑えとどめる」の両方の意味があります。
今は実力をつけている途中の時、力をためてここぞの勝負に備えている時、すぐ動きたい気持ちをあえて抑えている時に、この卦はよく出ます。
この卦は「正しきに利あり、家に閉じこもらず世に出て働けば吉、大きな川を渡る(大事に挑む)にも利あり」と、力強い実りを約束しています。
ただし、その大きな実りは「ためる」段階をきちんと経てこそ。すぐ進むべき時もあれば、あえて止まって蓄える時もあって、それはあなたが今どの段階にいるかで正反対になります。この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初九(しょきゅう) ― いちばん最初の段階
白文有厲利已。
書き下し厲(あや)うき有り、已(や)むるに利(よろ)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 今はまだ、無理に進む時ではない段階。いったん止まっておくのが賢明です。
- 今は、こんな時
- 前に進みたい気持ちはあるけれど、進もうとすると、どこか危なっかしさを感じる——そんなこと、ありませんか?力が満ちる前に動こうとして引っかかる、まだ準備不足なのに焦って始めようとしている、勢いだけで突っ込もうとしている。もし心当たりがあるなら、今はまだ「ためる」べき、いちばん最初の段階なんです。
- とるべき行動
- 危うさを感じる今は、無理に進まず、いったん立ち止まるのがよさそうです。ここで止まっておくことが、利のある選択になる時ですから、「止まる=負け」と思わなくて大丈夫。足を止めて力をためる、そのひと呼吸が、後で大きく効いてきますよ。
- 気をつけたいこと
- 「みんな先に進んでいるのに」と焦って飛び出すと、力不足のまま空回りしがち。今は出遅れているのではなく、助走をつけている時。焦らず構えていてください。
この爻が陰陽反転すると、卦は山風蠱(さんぷうこ)に変わります(之卦)。
九二(きゅうじ)
白文輿說輹。
書き下し輿(くるま)、輹(ふく)を説(だっ)す。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 自ら進むのをやめて、力を蓄えることを選ぶ段階のようです。
- 今は、こんな時
- 進める力はあるのに、あえて自分から足を止めて、今は蓄える方を選んでいる——そんな時にいませんか?動けるけれどあえて待機している、勢いを抑えて準備に専念している、出たい気持ちを自制している。車から留め具を外して、自分から「今は進まない」と決めるようなイメージです。もしそうなら、それは弱さではなく、賢い自制なんです。
- とるべき行動
- 進めるからといって飛び出さず、今は自分から進むのを控えて、力をためるのがよさそうです。自制できること自体が、今のあなたの強さです。前に出たい気持ちをぐっと抑えて、その分を蓄えに回してください。時が来れば、ためた力が活きますよ。
- 気をつけたいこと
- 自分で止まると決めたのに、途中で「やっぱり待ちきれない」と飛び出すと、せっかくの蓄えが中途半端になります。止めると決めたなら、その判断を信じて、どっしり構えていてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は山火賁(さんかひ)に変わります(之卦)。
九三(きゅうさん)
白文良馬逐、利艱貞。曰閑輿衛、利有攸往。
書き下し良馬(りょうば)逐(お)う。艱(かん)に貞(てい)なるに利(よろ)し。日(ひ)に輿衛(よえい)を閑(なら)えば、往(ゆ)く攸(ところ)有るに利し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- ためた力で前へ駆け出せる段階。ただし、困難に耐え、日々の備えを怠らないことが条件です。
- 今は、こんな時
- これまで蓄えてきた力が満ちて、ようやく勢いよく前へ走り出せる——そんな手応えはありませんか?準備が整って一気に動き出せる、実力が伴って攻めに転じられる、待った甲斐あって道が開けてきた。良馬が並んで駆けるように、スピードに乗っていける時です。もしそうなら、ここは前進していい段階なんです。
- とるべき行動
- 勢いに乗って進みつつ、困難の中でも筋を通し、日々の備え(腕を磨く・足元を固める)を怠らないのがよさそうです。苦しい場面でも正しさを保って進めば、利のある時ですから、攻めて大丈夫。ただし走りながらも、御し方や守りの稽古は続けてください。それが暴走を防ぎます。
- 気をつけたいこと
- 勢いがつくと、つい備えを忘れて突っ走りがち。速く走れる時ほど、ブレーキと守りの確認を。日々の鍛錬を手放した瞬間に、勢いは事故に変わりますよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は山澤損(さんたくそん)に変わります(之卦)。
六四(りくし)
白文童牛之牿、元吉。
書き下し童牛(どうぎゅう)の牿(こく)、元(おお)いに吉。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 災いを、力を持つ前の早い段階で抑え込む段階。大いに良い時です。
- 今は、こんな時
- 問題やトラブルを、それが大きく育って手に負えなくなる前に、早めに抑え込めている——そんな時にいませんか?小さな芽のうちに対処できている、相手がまだ力を持たないうちに手を打てている、リスクを未然に防げている。子牛の角に、まだ伸びきらないうちに当て木をして暴れないようにする——そんな、賢い早めの予防です。もし心当たりがあるなら、今はとても良い段階なんです。
- とるべき行動
- 問題が小さい今のうちに、根本を早めに抑えておくのがよさそうです。力を持つ前に手を打てれば、大いに良い結果になる時ですから、「まだ小さいから後で」と先延ばしにしないでください。早い予防は、力ずくの後始末よりずっと楽で、効果的なんです。
- 気をつけたいこと
- 早めに抑えるのは良いことですが、相手や状況を頭ごなしに封じるのではなく、自然に暴れずに済む形へ導くのがコツ。力で押さえつけるより、根本をやわらかく収めることを意識してくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は火天大有(かてんたいゆう)に変わります(之卦)。
六五(りくご)
白文豶豕之牙、吉。
書き下し豶豕(ふんし)の牙(きば)、吉。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 荒ぶる力を、その根元から抑える段階。良い時です。
- 今は、こんな時
- 手強い相手や厄介な力を、正面から力ずくでねじ伏せるのではなく、その「荒ぶる根元」を押さえることで穏やかにできている——そんな時にいませんか?相手の攻撃性そのものを和らげられている、暴れる原因を断って事を収めている、衝突せずに難しい相手を御せている。牙のある猪も、その荒々しさの根を抑えれば、牙はあっても害をなさない。そんな、急所を押さえる賢さです。もしそうなら、今はとても理にかなった段階なんです。
- とるべき行動
- 厄介な相手や問題には、真正面からぶつかるより、荒ぶる「根元」を見極めて、そこを押さえるのがよさそうです。急所を押さえて穏やかに収めれば、吉となる時ですから、力比べに持ち込まなくて大丈夫。何がその力の源かを見抜くこと——そこに鍵があります。
- 気をつけたいこと
- 根元を見誤って、目に見える「牙」のほうばかり相手にすると、いたずらに消耗します。表面の脅威ではなく、その奥の原因に目を向ける。落ち着いて急所を探してくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は風天小畜(ふうてんしょうちく)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文何天之衢、亨。
書き下し何(なん)ぞ天の衢(ちまた)なる、亨(とお)る。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 蓄えが満ちきって、道が大きく開ける段階。のびのびと通っていく、最高の時です。
- 今は、こんな時
- 長くためてきた力がついに満ち、目の前にどこまでも広い道が開けた——そんな解放感を感じていませんか?我慢して蓄えてきたものが一気に活きる時が来た、制約が外れて自由に動けるようになった、努力が大きく報われて活躍の舞台が広がった。まるで天空に伸びる大通りのように、進む道が四方へ開けている状態です。もしそうなら、ここは蓄えの物語が実を結ぶ、最高の段階なんです。
- とるべき行動
- 開けた道を、思い切ってのびのびと進んでいくのがよさそうです。蓄えが満ちて道が大きく開け、すべてが通っていく時ですから、もう遠慮はいりません。ためてきた力を、今こそ存分に発揮してください。抑えてきたぶん、放たれた時の伸びは大きいですよ。
- 気をつけたいこと
- 道が開けた喜びで、つい力を使い果たすほど突っ走りがち。せっかく長くためた力です。一気に燃やし尽くさず、開けた道を末永く走れるよう、配分も意識してくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は地天泰(ちてんたい)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。
読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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