天水訟
対立が生まれやすく、争いの引き際が問われる時
上卦:乾(天) 下卦:坎(水)
白文訟、有孚、窒。惕中吉。終凶。利見大人、不利涉大川。
書き下し訟(しょう)は、孚(まこと)有るも窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中(ちゅう)すれば吉(きち)。終(お)うれば凶(きょう)。大人(たいじん)を見るに利(よろ)し、大川(たいせん)を渉(わた)るに利しからず。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、考えや利害がぶつかって、もめごとや言い争いに発展しやすい——そんな空気が流れているようです。
上に向かう天と、下に流れる水。互いに逆の方を向いていて、どうしてもかみ合わない。そんなすれ違いのイメージですね。
意見が真っ向から対立している時、筋を通したいのに通らない時、誰かと白黒つけたくなっている時に、この卦はよく出ます。
この卦が教えてくれるのは、「正しさがあっても、争いは長引かせるほど良くない」ということ。おそれを忘れず、ほどほどで止めれば良い結果に向かいますが、とことんやり合うと、たとえ勝っても痛手が残ります。
テーマは「争い」。ただし、引くべきか・守るべきか・任せるべきかは、段階で変わるんです。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初六(しょりく) ― いちばん最初の段階
白文不永所事、小有言、終吉。
書き下し事(こと)とする所を永(なが)くせず。小(すこ)しく言(げん)有れど、終(つい)に吉(きち)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- もめごとを長引かせない時。早めに切り上げれば、ちゃんと収まる段階です。
- 今は、こんな時
- 争いごとが、まだ始まったばかりの小さな段階——そんな時です。ちょっとした言い合いや行き違いはあるけれど、まだ深刻にはなっていない。誰かと意見がぶつかった、ささいなことでカチンときた、言い返したい気持ちがくすぶっている。そんな「火種」に、心当たりはありませんか?
- とるべき行動
- 今は、それを長引かせずに、早めに切り上げるのがよさそうです。少し言い分のぶつかり合いはあっても、深追いせず引けば、最後はちゃんと良い形に収まる時ですから、安心してください。勝ち負けにこだわらず、「このへんにしておこう」と先に手を引く。その潔さが、いちばん得をしますよ。
- 気をつけたいこと
- 「ここで引いたら負けだ」と意地を張ると、小さな火種を自分で大きくしてしまいます。最初のうちに収めるのがいちばん簡単。こじれる前のいまが、引き時なんです。
この爻が陰陽反転すると、卦は天澤履(てんたくり)に変わります(之卦)。
九二(きゅうじ)
白文不克訟、歸而逋、其邑人三百戶、无眚。
書き下し訟(うった)えに克(か)たず、帰りて逋(のが)る。其の邑人(ゆうじん)三百戸、眚(わざわ)い无(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 勝ち目のない争いから、身を引く時。退くことで災いを避けられる段階です。
- 今は、こんな時
- 正面からぶつかっても、今は勝てる見込みが薄い——相手のほうが強い立場にいて、押し切られそうな時です。上司や取引先、力のある相手と対立している、組織やルールを相手に分が悪い、戦っても消耗するだけに見える。そんな「これは分が悪いな」という局面に、心当たりはありませんか?
- とるべき行動
- 今は、無理に押し通そうとせず、いったん退いて身を低くするのがよさそうです。逃げるように引っ込んでも、それは恥ではありません。深追いせず身を引けば、大きな災いには遭わずに済む時ですから、安心してください。勝てない勝負に意地を張るより、引いて態勢を立て直す——それが賢い一手になりますよ。
- 気をつけたいこと
- 「悔しいから一矢報いたい」と食い下がると、かえって傷を広げてしまいます。今は勝つことより、被害を出さないことが目的。退く判断の早さが、あなたを守ります。
この爻が陰陽反転すると、卦は天地否(てんちひ)に変わります(之卦)。
六三(りくさん)
白文食舊德、貞厲、終吉、或從王事、无成。
書き下し旧徳(きゅうとく)を食(は)む。貞(てい)なれど厲(あや)うし、終(つい)に吉(きち)。或(ある)いは王事(おうじ)に従うも、成すこと无(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 守りに徹する時。新しく攻めず、今あるものを守れば切り抜けられる段階です。
- 今は、こんな時
- これまで積み上げてきたもの、もともと自分が持っている分を、静かに守っている——そんな時です。危なっかしく見えるけれど、無理に手を広げなければ持ちこたえられる。今の立場や取り分を守りたい、波風を立てたくない、新しい争いには関わりたくない。そんな心境に、心当たりはありませんか?
- とるべき行動
- 今は、新しく何かを取りにいったり、手柄を立てようと前に出たりしないのがよさそうです。今あるものを守り、控えめに過ごす。危なっかしくても、守りに徹していれば、最後にはちゃんと良い方へ向かう時ですから、焦らなくて大丈夫。たとえ人の仕事を手伝う立場でも、成果を自分のものにしようとせず、淡々とこなすのがいいと思いますよ。
- 気をつけたいこと
- 「もっと評価されたい」と前に出て功を求めると、争いに巻き込まれやすくなります。今は目立たず、足元を固める時。守ることが、そのまま結果につながる段階なんです。
この爻が陰陽反転すると、卦は天風姤(てんぷうこう)に変わります(之卦)。
九四(きゅうし)
白文不克訟、復即命渝、安貞吉。
書き下し訟(うった)えに克(か)たず。復(かえ)りて命(めい)に即(つ)きて渝(か)わる。貞(てい)に安んずれば吉(きち)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 勝てない争いから、心を切り替える時。態度を改めれば落ち着く段階です。
- 今は、こんな時
- いったんは争おうとしたけれど、押し通すのは難しいと気づく——そんな時です。勝ちにこだわっていた気持ちを、ここで一度手放せるかどうかが分かれ目になります。意地で続けていた言い争いに疲れてきた、自分の主張に少し無理があると薄々感じている、引くタイミングを探している。そんな揺れ、ありませんか?
- とるべき行動
- 今は、勝とうとする構えをいったん下ろして、心を入れ替えるのがよさそうです。すじの通った道に立ち返り、落ち着いて構え直す。気持ちを切り替えて穏やかに腰を据えれば、それで良い方へ向かう時ですから、安心してください。「勝つ」から「収める」へ——その方向転換ができると、流れが変わりますよ。
- 気をつけたいこと
- 頭では分かっていても、プライドが邪魔して切り替えられないことがあります。意地を張り続けるほど苦しくなるだけ。引き返す勇気を、自分への賢さとして持ちたい時ですね。
この爻が陰陽反転すると、卦は風水渙(ふうすいかん)に変わります(之卦)。
九五(きゅうご)
白文訟、元吉。
書き下し訟(うった)え、元(おお)いに吉(きち)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 公正に裁かれる時。筋が通って、いちばん良い形で決着する段階かもしれません。
- 今は、こんな時
- もめごとが、公平な目によってきちんと裁かれる——そんな時です。あなたが正しい立場にあるなら、それがちゃんと認められて、すっきり決着する局面です。第三者が間に入って公平に判断してくれる、筋を通してきたことが報われる、こじれた問題に正しい裁定が下る。そんな手応え、ありませんか?
- とるべき行動
- もしそうなら、変に小細工をせず、正々堂々と筋を通すのがよさそうです。公正に向き合えば、これ以上ないほど良い形で決着する時ですから、安心してください。あなた自身が公平な立場で誰かの間を裁く側にいるなら、私情を交えず公正に——その姿勢が、いちばん良い結果を呼びますよ。
- 気をつけたいこと
- 正しさがあるからこそ、勝ちを誇って相手を追い詰めすぎないことです。決着がついたら、それ以上は深追いしない。公正さに品が伴うと、この良い結果が長く活きてきます。
この爻が陰陽反転すると、卦は火水未濟(かすいびせい)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文或錫之鞶帶、終朝三褫之。
書き下し或(ある)いは之(これ)に鞶帯(はんたい)を錫(たま)わるも、終朝(しゅうちょう)に三たび之を褫(うば)わる。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 争いの行き過ぎ。勝って手に入れても、長くは保てない段階です。
- 今は、こんな時
- とことん争い抜いて、ついに勝って褒美まで手にした——けれど、その栄誉は朝のうちに何度も剥ぎ取られてしまう。そんな、「勝ったのに虚しい」局面を表しています。意地で勝ち取ったものが、すぐ手のひらを返される。徹底的にやり合って相手を負かしたのに、周りからの信頼を失っている、後味の悪さだけが残っている。そんな「勝ったはずなのに」という感覚に、心当たりはありませんか?
- とるべき行動
- もし思い当たるなら、ここは勝ちを追い求める手を止める時かもしれません。争って奪い取ったものは、同じように奪い返されやすいもの。今は、力ずくの勝利にしがみつくより、矛を収めて関係を立て直すほうへ目を向けてみてください。引くことが、結局いちばん多くを残してくれますよ。
- 気をつけたいこと
- 「ここまで勝ったんだから手放せない」と執着すると、勝利ごと崩れてしまいかねません。とことんやり合った末の勝ちは、長続きしないのが道理。勝ち負けの先にある「その後」を、いちばん大事にしてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は澤水困(たくすいこん)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。
読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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